読書感想文
「アグルーカの行方」(角幡唯介)
※675文字※
作者の角幡唯介さんのことは、ユニークな冒険家とだけ知っていて、著作のなかで初めて読んだのがこの本でした。
今の極地探検というのは、昔の物とは全く違うのですね。
昔の探検といったらそれは国家事業で、大げさなバックアップが付いて当時の技術の粋を集めた装備が云々となるのですが、この探検で使用されている主な装備は市販品なのです。
北極探検の生死を分けるといってもいい衣類はユニクロのヒートテックです。
かつてたくさんの探検家に死をもたらしたビタミン不足を解決するのは、マツモトキヨシで買ったサプリメントです。
でも、そのことでこの探検の価値が変わるかといったらまったくそんなことはありません。
なんといっても徒歩で、荷物も人力で運んでかつての探検隊の足取りをたどるのです。
しかもその探検隊は途中で129人が全滅したフランクリン隊のことでした。
現代の探検でも、その厳しさは十分に伝わってきます。
食料が不足したり体調をくずしたりと読んでいるこちらまで辛くなるような場面が続きます。
しかし、意外なほどに文章は冷静です。
それは探検家にとっては必要な資質なのでしょう。
そうでなければ命の危険もあるのだと思います。
昔の探検物語を読んでいる人にとっては、良い意味の驚きをもたらす語り口です。
なんといっても魅力的なのは、このタイトルです。
アグルーカとは生き残ったかもしれないフランクリン隊を示す言葉ですが、なんともロマンチックな響きがあると思います。
悲惨でしんどくて辛い極地探検なのですが、根底にはロマンチックな気持ちがあるのかもしれません。
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