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読書感想文
「WILL」(本田孝好)
※2019文字※
「引いてくれる手を失ったあの日、私は身を包み込む暗闇に脅え、ただ目を閉じ、立ちすくんだ。
けれど、目を開けて闇を透かせば、星灯りの中、差し伸べられているいくつもの手があったはずだ。
私はそんなことにすら気付かなかった。いや、気付いていたのに、気付かぬ振りを続けた。
その手を握り返してしまえば、再びそこから歩き出さなくてはならないから。
でも、もう大丈夫。私、行きます。」
この本の主人公、「森野」がエピローグにて自らを省みたこのモノローグを読んで、私ははっとした思いがした。
これはきっと、私自身にも当てはまることだ、と感じた。
この本との出会いは、大してドラマチックなものではなかった。
インターネットを何の気なしに眺めていたら、この本を薦めているサイトを見つけたのだ。
静かに心に寄り添って、読み終えた時に爽やかな気分になれる。
そんな風に紹介されていた気がする。
興味を惹かれて、読んでみることにした。
そして、読み進めていくうちにどんどんとこの物語の中に入り込んでいった。
いつも堂々と振る舞う葬儀屋の森野は、しかしその心の内に若くして両親を失った寂しさを潜ませている。
そんな森野に手を差し伸べる人達はたくさんいるのだけれど、森野はそれを拒絶してしまうのだ。
私は、森野のように大切な人達を失ったことはないけれど、悲しい思いはたくさんしてきた。
そんな自分と森野を重ねると、なんとなくだけれど、その気持ちがわかる気がした。
悲しくて、殻に閉じこもって一人でいると、なんだか世界中に自分の味方なんて一人もいなくて、孤立無援の状態なんじゃないか、なんて考えてしまう。
自分は幸せになってはいけない人間なんじゃないか、と考えて、ますます悲しくなって、より強く殻に閉じこもるようになってしまう。
そんなふうに振る舞った覚えが私にもあった。
しかし、そのように共感しても、ではどうすればいいか、ということはまるで思いつかなかった。
それから読み進めていくと、森野は葬儀屋の客の周りに起こる不思議な出来事を、「死者を眠らせるのが自分の仕事だ」と、力を尽くして解決していく。
その中でたくさんの人たちの考え方にふれて、自問自答を繰り返しながら成長していく。
いや、成長というより自ら縛りつけていた心を、徐々に解き放っていくと言った方がいいかもしれない。
そして最後に、両親の代からの葬儀屋の職員、竹井に「御両親の葬儀をもう一度執り行いましょう」と提案され、再び両親を送り出す。
そこで気付くのだ。再び進み出すことを恐れて、差し伸べられていた手を拒んでいた自分に。
そして、今でも自分は一人ではないということに。
そんな時、森野の心に、自分を認めて、受け入れてくれる両親の言葉が響く。そして一粒、涙を流す。
そこで私も気付かされた。殻にこもって孤独を気取っていたのは、森野と同じように進むことを恐れていたからだ、ということに。
そしてきっと、私が見ないふりをしていた差し伸べられた手は、今でも変わらず差し伸べられていることに。
世界が広がり、光が差し込んだような気がした。
確かに、何かに新しく挑戦していくことには勇気がいるし、被害者意識で閉じこもっていた方が心は楽になる。
でもきっとそれは、一種の諦めで、未来を捨てているのと同じだし、手を差し伸べてくれている人に対しても失礼なことだ。
もう一度立ち上がるのは簡単ではないけれど、それを助けてくれる人はきっといる。
その人のためにも、もう一度立ち上がり前に進む決心をしよう、と思った。
この物語は、森野が自分を迎えに来た幼馴染の神田とともに歩んでいくことを決めるシーンで幕を閉じる。
そこで森野は心の中で両親へと語りかける。
「私はこいつが好きです。大好きです。
だから、あなたたちのくれたプレゼントだけを手に、こいつと一緒に行きます。
あなたたちが結び、築いたものを、それと同じものを、こいつと一緒に目指してみます。」
「ねえ、これは言ってなかったですね。
いつも憎まれ口しか叩けなかった娘です。
だから、今、言います。よい名前です。ありがとう。」
森野は神田から差し伸べられた手を取り、両親からの愛に気付いたのだ。
その目は未来に向けられていることだろうと思う。
もし、自分と同じように悲しみに打ちひしがれて、立ち上がる勇気を持てずに殻に閉じこもっている人がいたなら、今まで自分がしてきてもらったように、その人に手を差し伸べようと思った。
たとえ最初はその手を払いのけられたとしても、決して諦めずにずっと手を差し伸べ続けようと。
私が気付けたように、その人もきっといつか自分へと差し伸べられている手に気付いて、再び前に進む決意をしてくれると思うから。
それを信じて手を差し伸べ続けることこそが、同じように私を信じて手を差し伸べてくれていた人たちへの精一杯の恩返しになることに気付いたから。
それに気付かせてくれたこの本は、私の心に残る一冊になった。
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