読書感想文
「銀二貫」(高田郁)
※1211文字※
高田郁さんの歴史小説です。
高田郁さんといえば、まずは「みをつくし料理貼」から入り、長編ゆえに次に何を読もうかなと迷うところだと思いますが、銀二貫はちょうどよいおすすめの作品かと思います。
仮に高田郁さんの小説が初めての方も非常に入りやすい内容です。
歴史小説といえば、どうしても戦国時代や戦というところがポイントになるものが多いのですがこの作品は大阪商人であり、天満への寄進であったり、お武家さんの息子である松吉が仇討ちをしたい気持ちを抑えながら一商人として成長していく姿はなかなか見どころがあります。
そもそも、江戸時代の歴史小説といえばどうしても幕末を意識してしまうのですが、この作品には江戸時代の大阪商人のいきいきした姿が描かれているのが印象的です。
士農工商という階級にとらわれて、保守的になるのではなく、いろいろな工夫を凝らしながら不況や災害を乗り越えていく姿が見えます。
大阪が商売人としての地位を築くに至ったのはこの時代だったのかと理解することができます。
そして、宗教ではなく天神さんを信仰して商売人が火事で焼けてしまったところを寄進して復興させようというくだりはまさしく、大阪商人らしいなと思いました。
さて、話は戻って主人公である松吉の人生について考えたことです。
もともとは武家の出でありながら、藩の争いの巻き込まれて父親が殺され、その仇討ちを考えながらも、この作品のタイトルである「銀二貫」で命を救われて、いつぞや商売人への道を歩くことになるのです。
これまでいくつもの歴史小説を読んできましたがなかなかこういったストーリーはなかったと思います。
江戸時代という階級制がはっきりしていた時代でも、やりようによってはここまで人間買われるのであれば、現代はもっと簡単に本人のやる気さえあれば変わることができるのではないかと思わせてくれる小説です。
みなさんも、自分自身がかわりたいがなかなか変わる決意ができない、どうすればよいかわからないという迷いの瞬間があるはずです。
そういったときにこの銀二貫を読んでみてください。
松吉が長い時間をかけて、自分を武家の出から一商人へと成長する姿を作品を通じて読むことで吹っ切れることができるかもしれません。
そして、もともと天神さんに寄進するはずだった「銀二貫」で松吉を救った店主と番頭さんがしみじみ、安い買い物だったなと松吉との長い思い出の数々を語るさまは本当に涙なしでは読めないところです。
松吉自身も愛する女性と結ばれることになり、結局はハッピーエンドに終わる物語ですが、ここに至るまでの過程や松吉の周りの人間の苦労、そして大阪を襲う火事など見どころはいっぱいです。
ちょっとこれまでの歴史小説と違った雰囲気を味わいたい方にはお勧めしたい作品です。
読み終わったときには大阪商人のたくましさ、そして人間は変わることができるんだ、やはり人間は人間が好きなんだと確信することが出来ると思います。
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