12万円で世界を歩く(下川裕治)1200

※1321文字

12万円で世界を歩く(下川裕治)を読んでの感想

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私がこの本に触れたのは、中学にあがった頃だっただろうか。
当時の私には、12万円というのはすごい大金だという認識があった。
欲しかったゲーム機すべて買える。
それは金を稼いだことがない小学校を卒業したばかりの私にはこの文庫本が、
大金を手にして世界を回るガイドブックなんだと信じてやまなかった。
実際にこの本には、自分の知らない海を出た世界が書いてある。
当時はインターネット等あまり普及しておらず、
知識は活字、ビデオ、テレビ…知りたければ自ら行動して
手に入れなければいけなかった。
キーボードで検索ワードを打ち込んで、いくつもの候補の中から
知りたいことを調べられる。
そんな便利な時代ではなかった。
それが故にこの本が私にとっては世界を知るきっかけになった本となった。
それが少しずれた知識だと知ったのは後々のことであるが。
前置きが長くなってしまったが、この本に私が取り憑かれたのは
この本が文章で埋め尽くされた紀行本ではなく、たくさんの写真が
収められた点だ。
まずタイからインドネシアに向けての旅が記してあるが、
そこにはタイの食事、日本人がなかなか泊まらないであろう安宿、
ときにはカラー写真とともに現地の様子が記されている。
それは普通は知りえない情報だった。
そして各旅の締めに明細書がのっているのだが、
お金を知らない当時の私はそれが特にワクワクし興奮した部分でもあった。
異邦の地ではホテル代が当時のレートで五百円など使ったお金が
全て記されていた。

しかし今の自分の立場では何とも言い難いものがある。
それがこの本の面白い部分でもあるのだ。
よもや20年以上の前の憧れの紀行本が歴史書になるとは思っていなかった。
今は情報は世界情勢もある程度開けた情報と化している。
あの時の今は全て過去として記憶されてある。
便利になるとともに、今は失われた道具がこの本では使われているのだ。
今は虫除けスプレーを使うが蚊取り線香を40円で買っている。
今読むと、当時の記憶とともに新しささえ感じるのだ。

さてこの本は12万円で様々な世界を歩いた。
ヒマラヤを登るためネパールに、隣国韓国への低予算旅でのさらに劇安旅、
船で渡った中国の旅、遥か離れたアメリカでの旅、
アジアからユーラシア、そしてヨーロッパまで向かった世界一周の旅、
まだまだたくさんあるのだが数えればキリがないのだ。
それほどまでに世界が果てのないというものが表現されている。

そして読めば読むほど世界もお金も知らなかった自分が
この本で色々知り始める。
バスで30時間揺られてでしか安い金で移動できないこと、
故に熱帯アジアでも冷房もなくバスに揺られること。
日本から持ち込んだ袋ラーメンがその国の食事だということ。
明るい楽しい話などあまりない、むしろ貧乏旅行であるから
暑く寒く快適などない旅の話が続く。
それこそがこの本の魅力だろう。
今では私も年を重ね、この本を読んだ頃よりはこの本の
著者の年に近づいてきた。
今、12万円での海外旅行など、アジア圏では充分なお金だろう。
この本ではタイまで7万円ほどかかっている。
それほどまでに時代は変わった。
時代の小さな変化、大きな変化。

この本のような一生物の本に出会うと、今、当時と振り返り
見つめなおせる機会に出会えるだろう。