「プリンセストヨトミ」読書感想文の書き方の例文2000字

※2098文字

「プリンセストヨトミ」(万城目 学)を読んでの感想

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「鴨川ホルモー」「鹿男あをによし」などという、
どちらかと言えば荒唐無稽なストーリーの小説を中心に
書いている作家だと思っていました。
しかしそれでも根強い人気があり、多くの作品が映像化されています。
それを考えると、やはりそれぞれの話の中に登場するキャラクターの
心情の細やかな動きや場面の設定など、まさに「書く力」で
現実味を感じさせてきたと言えると思います。

「プリンセストヨトミ」もこれまでの作品と同じように、
「そんな馬鹿な」と思いながらもどんどんその小説の世界の中に
引き込まれてしまう作品でした。

そしてそれ以上に私にとってこの小説が忘れられないものとなったのは、
「父と子」という小説のテーマと自分の境遇が見事に重なった時期が
あったからなのです。
この作品に出会った少し後に、私の父は癌の宣告を受けました。
「肺の病」という事で少しずつ息をすることが苦しくなり、
鼻に管を入れて酸素を吸いながら生活する父は、それでも私達や
孫娘達の訪問をいつも笑顔で迎えてくれていました。

北国育ちだったせいでしょうか、父はいつも無口で、仕事中心の人でした。
休みの日にも本を読んでいたり机に向かっていたりすることもよく
ありました。
いざと言う時には理論立てて怒る父でしたが、いつもはその背中ばかり
を見ていたという記憶がほとんどでした。

この「プリンセストヨトミ」の大きなテーマの一つが
「父が息子に伝え続けていく」というものがあります。
大阪城で滅んだといわれる豊臣の系譜が現代まで続いていて、
大阪の人たちがその末裔を守り続け、いざという時には
「ある目印」を見て全員が決起する、その秘密を父が息子に
伝え続けていくというストーリーに、命の灯がもうすぐ消えよう
とする父と自分の姿をいつの間にかあてはめてしまっていました。

いつもは無口で無駄な事や冗談を言わなかった父、
自然と話をすることも少なくなり、父と同じ「教師」と言う職業に
ついてからも何も教えてもらう事もなく、こちらから
「仕事について・・・」と聞くこともなく、淡々とした毎日を
送ってきていました。
そんな父ともう話す機会がなくなってしまうという時になって
初めて「もっと話をしておけばよかった」と
心から思うようになりました。

この作品の中には、「父が息子に秘密を伝える」という場面について
何度か語られます。
「父と子は隠された長い廊下を二人きりで歩いて話をする」という設定
になっています。
しかもそれはたったの二度。
一度目は息子が大人として認められる時、もう一度は父がこの世から
いなくなることがわかった時なのです。
その時に「豊臣の子孫を守る使命」と「その時を知らせる目印」に
ついて話をするという設定が描かれています。

長い廊下を歩く年老いた父と息子。
今までゆっくり話をしたこともない二人がまるで今までの時間を
取り戻そうとするようなゆっくりした足取りで並んで歩きながら話をする。
そんな場面を読み、情景を思い浮かべた時、自然と父と歩く自分の姿を
思い浮かべてしまいました。
そんな時が訪れたら父は何を語ってくれるのだろうか、自分は父に
何を話すのだろうか。
お互いにおしゃべりが苦手な二人手ではあるけれども、きっと話したい
ことが心の中にたくさん湧き上がってくるだろう。
そしてそれがために、逆に何から話せばいいか分からなくなり、余計に
無口になってしまうのではないだろうか。
そんな想像がどんどんと膨らんできてしまいました。
そしてそれは想像ではなく、きっと今の私の「本当に望んでいる事」
なのだと思うようになりました。

ラストシーン近くで語られる
「あなたは大人になってから、一時間でも、父親と二人きりの空間で話し合ったことがあるか?」
という言葉が語られます。
そしてその時間は「二度と持つ事が出来ない二人だけの記憶になる」
と続けられていきます。

私はきっともっともっと父と話をしたかったのだと思います。
そして父の声を、思いをもっともっと聞きたかったのだと思います。
だからこそこの場面で涙が止まらなくなりました。
「父にも読んでもらいたい、話の苦手でうまく言えなかった私の想い、
もっともっとあなたと話がしたかったという思いを知ってもらいたい」
と思い、病床の父に
「これ絶対面白いから読んで」と「プリンセストヨトミ」を渡しました。
父はその後数日して、逝ってしまいました。
父がこの本を読んでくれたかどうかは、今となっては分りません。
しかし、ちょうど私も「心の病」を発症し、
仕事を辞めざるを得なくなり、その事を父に話しました。
「自分と同じ職についたことをわがことのように喜んでくれていた父を
がっかりさせることになるかもしれない」と思いながらも思い切って
話した時、父は「周りは気にしなくてもいい。おまえはお前らしく
生きればいい」と一言答えてくれました。
それが父と私との「二人だけの記憶」となりました。
映画化もされ有名になりましたが私にとっては一生忘れられない一冊
となったこの作品、思わずな笑ってしまう場面に隠された
「父と子の物語」や「伝えるという事の大切さ」など重たいテーマを
持つ話だという事を身をもって感じました。