「鬼喰う鬼」読書感想文の書き方の例文2000字

※2072文字

鬼喰う鬼(野火迅)を読んでの感想

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酒呑童子伝説を題材に、様々な独自解釈を踏まえて再構成した
伝奇アクションノベルです。

私は酒呑童子伝説が大好きで、題材にした本やゲームを読んだり遊んだり、
能の大江山を観賞したりした時期があるのですが、その中で「面白い!」
と思った解釈が多く綺麗に一冊で終わっているのが本作でした。

この作品の主人公は、史実(?)通りに酒呑童子を退治した
「ミナモトノライコウ」と発音する人物ではあるのですが、
歴史上存在した「源頼光」と本作主人公の「源雷光」は別人であり、
頼光はなんとも情けない保身のことしか考えていない矮小な貴族化
した武士として描かれています(笑)。

一方で雷光は隻眼隻腕の若武者であり、弓の達人。
そしてこの一連の戦いにおいて、朱天童子の血を引く人ならぬ鬼であり、
その名の通り雷光を操る超人という「こんな人物本当は存在していなかった
んだからここまで盛っても構いやしねーな!」なんて清々しさを覚える
レベルの設定です。

しかしながら、隻眼隻腕で弓を引くために口で矢を番えて引くという
荒業をやってのけるのですが、当然ながら口も腕も血まみれになるわけで、
しかもそれを騎馬状態で行うために文字通り血の滲むような努力を
積み重ねたという描写が丁寧に描かれています。
平安時代の武士の基本戦闘スタイルは騎兵からの弓射だったという定説を
踏まえつつ、無茶な設定に擦り合わせているあたり、エンタメ重視なようで
ちゃんと歴史考察をある程度入れているんですね。

この作品でとくに大胆な設定と思ったのは本来の伝説では頼光四天王筆頭にして、
単独でも鬼斬り伝説をいくつか残しているほどの豪傑である渡辺綱を、
雷光の養父にして鬼であるということ。
酒呑童子伝説の時代は、長い平安時代の割と初期の方でありまだ武士の
政治的権力は低く地方武士なんかに至っては、それこそ野蛮人とほぼ同列に
扱われていた時代です。

そして武士側も大和朝廷に頭っから仕えようなんて思っていたわけでもない、
まだ政治中枢が不安定な時期であったので、そういった下層武士の代表として
登場させたであろう渡辺綱を「鬼」というまつろわぬ民の一族として、
大胆且つ手短に読者に伝わるよう設定したわけですね……たぶん。
ただ、この物語の渡辺綱は別に権力欲があるわけでもないし叛乱を起こす気もない、
豪放磊落で血の繋がらない息子を深く愛する、偉大なる父にして武士として
描かれています。
この綱と雷光の父子愛は物語前半を使って丁寧に描写されており、結構気に入っています。
前述の雷光の隻眼隻腕というハンデキャップも綱は叱咤激励しており、その状態で
弓を引く方法も考案するなど人間的な愛情を感じる描写もあれば、
その失われた腕と眼球(外観は鬼そのもの!)をくっつけろ力になるから、
と叱り飛ばす鬼としての愛情も感じる描写もあり、両方の面で彼は雷光を息子として
愛して育てていたことがわかります。

ちなみに、伝説では綱の同僚であった坂田金時は幼い姿の時の金太郎
そのまんまで出てきますが(!)、これも鬼という設定。
個人的に「山姥が母親で、竜の子とか山の主が父親とかいう伝承も中にはあって、
熊をはじめとした山の動物を友達に育った赤ん坊って、それもう完全に鬼じゃないか…」
と金太郎に関しては思っていたので、これに関しては割とスルっと流されていても
さもありなんという感じでした。
まぁ、金太郎を題材にしたものの中には金太郎を鬼どころか女の子にしてしまった
衝撃の作品すらありますので……。

そして、この作品における酒呑童子ならぬ朱天童子(こう表記している伝説もちゃんとあります)
は自然の気性の権化として描かれており、人智や人の道徳というものを超越した、
文字通り次元の違う存在という設定。
要は台風やそれこそ雷そのものと同じような存在であり、人に害を成すも益を生むも、
そんなことは彼自身にとっては瑣末なことなのですね。
伝説の酒呑童子はその酒癖の悪さや末路から日本神話における八岐大蛇の末裔とされることもあり、
この八岐大蛇が自然の擬獣化であったという解釈もされることも多いので、この設定も
上手い所定説を大胆簡便に落とし込んでいますね。

そういう意味で、この物語は「力を持たなかった武士が苦渋を舐めながら大和朝廷に認めてもらい、
徐々に立場を確立していった過程」「根源的には一緒の立場のものが、時の権力に寄り添うか
逆らうかで対立し、殺しあった過程」「日本民族の生活力が向上し、自然を屈服させた過程」
を圧縮、代弁させているとも言えます。

私が酒呑童子伝説を魅力と思う要素は、正にここなのです。
今は貴族も武士もいないですし、自然の力を科学技術でかなりコントロールできるように
なりましたが、そこに至るまでの過程で多くの悲劇がありそして数え切れないほど大切なものを
人類は捨ててきたのでしょう。
そういう悲しさ、敗者の叫び、捨てられた者の慟哭をどこかに感じられるのが酒呑童子伝説
というわけで、それを拾いつつも現代に繋がる希望へときちんと結んだこのお話は
エンターテイメントとして綺麗に完結しているなー、と感じ入るわけです。