「落日の剣 真実のアーサー王の物語」読書感想文の書き方の例文2000字

※2520文字

「落日の剣 真実のアーサー王の物語」(ローズマリ・サトクリフ)を読んでの感想

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アーサー王物語って、その端々のエピソードなんかは知っていたりする
のですが、実際にちゃんと全容は知らない……ってー人は多いと思います。
私自身そうです。
とはいえ、最近は各種ゲームの影響で大まかなあらすじや主要な
キャラクターは知っている、という人も増えたんでしょうね。
とくにFateシリーズ、Grand Orderの影響は大きそう。

そんなわけで、私も大体アーサー王物語とは「なんか若い騎士見習いが
王様になれる剣引っこ抜いて王になり、そして裏切りと戦いの果てに死ぬ」
程度の知識と、剣と魔法のファンタジーっていうことは知っていたのですが、
この作品はそういうのとは無縁です。

そもそも、主人公がアーサーという名前ですらないのですね。
「《大熊》アルトス」と通称される一介のブリテン伯でしかなく、
その彼が物語の始めに起こすことは、叔父でありブリテン王である
アンブロシウスに、馬の買い付け許可と自身が指揮する独立した
騎馬部隊の運営許可をいただくこと。
当時のブリテン(イギリス)には小型の馬しかおらず、鎧甲冑を
装備した騎士を乗せたまま戦場を駆け抜けられるような大型の馬
はいなかったのです。
だから大陸に出て種馬を購入し、自家繁殖させ、少数精鋭の重装騎兵と
補助役の軽装騎兵や歩兵で、サクソン人に奪われた土地を奪還しようという、
呆れ返るくらい現実的な兵站と戦略計画からこの物語は始まります。

この作品が書かれたのはもう半世紀も前ですが、当時の研究と作者自身の
考察により「アーサー王なる人物はいないだろうが、そのモデルとなった
人物はいるであろう。
そして彼は、後の伝説の下敷きとなる数々のエピソードを生み出しながら、
ブリテンのために生涯を捧げて戦い続けたのであろう」という体裁で
書かれたのがこの小説というわけです。

魔法や妖精に竜など一切登場しないため、この物語では冬は長いし戦争
できないし下手したら飢餓に見舞われることになるし、ブリテン人は我が
領土の防衛のためとサクソン人を追い払おうとしているけれどさらに
もっと太古からブリテン島に住んでいる原住民がいるし、アルトスは
その原住民と融和のために政略結婚するし、したらしたで妻帯禁止令を
出していた部下が不平等だと怒るし、敵も自分もいやらしいゲリラ戦を
しまくるし、食べ物は良く言えば素朴で悪く言えば原始的だし……
始終そんな感じで物語は進むわけで、主人公のアルトスにはかなり感情移入
しやすかったです。

それにこのアルトスという人物、決して完璧な人物ではないことが
かなり多いのです。
叔父に国王になってくれと嘆願された時の本人の自己評価ですが
「自分は一介の軍人でしかなく、叔父上のような王の器ではない」とするように、
情が厚すぎて政治家としてはかなりダメダメなんですね。
後の禍根となるような人物を殺すチャンスが巡ってきても手にかけることができず、
後々痛い目に逢う……ということを、生涯でざっと3~5回くらいはやっていますし、
酷いのになると殺すチャンスの二度目が訪れてなお殺せないという有様。
しかし、不器用ながら政略結婚したはずの妻を愛し、部下たちへの配慮が深く、
馬や犬との触れ合いを好み、戦場でしか人を殺している描写がないあたり、
本来は人も動物も大好きな優しい気性の男、という人物として描かれているので
なんとも憎みきれないのですね。
とくに、この「後の禍根となることがわかっていても殺せない」悪癖は、
物語の終盤で思いがけない結果を生み出すのです。

この作品では、アーサー王物語では有名なランスロット卿が出てきません。
円卓の騎士の中でも最強にして忠臣、そして王妃を寝取った裏切りの騎士。
彼と王妃とアーサーの三角関係がアーサー王伝説のブリテン王国崩壊の
引き金となるわけですが、この物語ではその役割をベドウィルという人物が
担っています。
伝説ではややマイナーな騎士ですが、この物語ではランスロットの役割を
与えられているからか、シニカルな性格だけれど有能で忠義に厚く、
竪琴の腕も歌声も素晴らしい元吟遊詩人というかなり盛り盛りな設定で
登場しています。
このベドウィルは臣下というよりアルトスの戦友としての側面が強く、
翻訳では慇懃無礼な口調でアルトスと会話をしていますが割と突っ込んだ
遠慮のない発言も多く(私は信じちゃいないがあのグワルフマイが信じる
神とやらに貴方が嘘ついたとか男色に耽ったとか、そんな理由で地獄に
落とされたとしよう。
いい気味だ、自業自得だと笑いはするが、地獄の業火で貴方のご尊顔が
焼かれそうになったらこの身を盾にしてでもお守りしましょう。等…)、
アルトスのみならず王妃や二人の間に生まれた子供と、一家の支えに
なっていたのですが……。
子供の死や自身の負傷、アルトスの政治的忙殺などが原因で王妃を慰めて
いたら、まぁ伝説のランスロットと同じような流れになるわけでして……。

しかし、完全に伝説通りとはならず、アルトスは不倫発覚の時点で二人を
追放するだけに留めるのですね。
伝説では王妃処刑→それを止めようとしたランスロットが誤って丸腰の
同僚を斬る→それが遺恨となり王もランスも嫌々ながら内乱勃発という流れ
になるのですが、この物語ではなぁなぁで終わってしまうという……。

そして、そんなことも過去のこととなってから、不義の息子である
メドラウトの反逆が起こり、圧倒的数差の絶望的な最後の戦いが
始まるのですが……ここに、たった一人で年老いたベドウィルが
助けに駆けつけてくるのです。

伝説のランスロットは人外からの数々の恩寵を受け、人智を越える
術を身につけ、多数の付き従う者たちをも得たのに、モードレッドの
反逆時にアーサー王への応援が間に合わなかった。
なのに、超人的な能力を持たず外国生まれの今や醜い顔の中年と
化した元騎士くずれは、応援に間に合い無二の親友と互いの罪を
許しあうことができた。
徹底的にファンタジー要素を抜き、アルトスの甘さを描いてきたからこそ、
魔法の助けも無く情に流される男が起こした、伝説を越えるたった一つの
奇跡はとてつもない重さを感じさせてくれました。

この他にも、色々と魅力的なエピソードは多かったのですが、
私がこの本で一番感動させられたところはこのあたりですね。