「流星ひとつ」読書感想文の書き方の例文2000字

※2085文字

「流星ひとつ」(沢木耕太郎)を読んでの感想

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「深夜特急」などで知られるノンフィクション作家・沢木耕太郎さん
によるインタビューです。
インタビューの相手となっているのは、歌手で、宇多田ヒカルさんの
母親でもある藤圭子さんです。
このインタビューが行われたのは、宇多田さんが生まれるずっと前。
藤圭子さんが人気絶頂だったころです。
しかしながら、最近になるまで、沢木さんによってずっと封印
されたままでした。
沈黙を破って出版されたのは、藤圭子さんの突然の死が背景に
あったようです。若
き日の藤圭子さんの肉声を伝える貴重な一冊となっているのです。
「流星ひとつ」は、藤さんの人柄を伝えてあまりあります。
その魅力となっているのは、独特の文体にあります。
本書は聞き手が語り手に質問するという普通のインタビュー形式
ではなく、全編が沢木さんと藤さんの二人の会話だけで
成り立っているのです。
これは若き日の沢木さんが、暖め続けていた文体なのだそうです。
二人の会話を補足する「地の文」はいっさいありません。
ニュージャーナリズムの旗手と称され、数々の話題作を出版してきた
沢木さんも、新境地を開拓する必要性を感じていました。

当初、本書のタイトルは「インタビュー」となるはずだったそうです。
このタイトルからも、二人の会話によるインタビューというアイディア
と文体に重点が置かれていたことがうかがえるようです。

しかしながら、出版されたタイトルは「流星ひとつ」となりました。
このタイトルが暗示するのは、藤圭子さんの突然の死なのでしょう。
文体に重点が置かれていた「インタビュー」というタイトルよりも、
語り手としての藤さんへの思いがよりこめられているようです。
沢木さん本人にも、自分の思いつき、自己顕示欲を、藤さんへの
インタビューによって実現することの葛藤や罪悪感があったのかも
しれません。
そして熟慮の末、本書はお蔵入りとなってしまったのです。
当時、藤さんは活動を休止していました。あまりに赤裸々に半生が
語られていることもあり、本書の出版が、藤さんの活動再開の
足かせとなることも、出版をためらった原因だったようです。
人気作家としての階段をのぼりつつあった沢木さんも、
当時は若手作家の一人にすぎませんでした。
人気歌手とのインタビューに成功したにもかかわらず、企画を
封印することは勇気ある決断だったのではないでしょうか。
皮肉なことに、藤さんの他界が、封印をとくきっかけになって
しまったのです。
インタビューで明かされているのですが、藤さんと沢木さんは、
フランスの空港で偶然顔を合わせています。
藤さんは気づいていませんでしたが、沢木さんははっきりと
覚えていました。
インタビューの文体も、まるでハードボイルドのように
格好いいのです。
ホテルのバーで火酒、つまりウォッカを重ねながら、
インタビューを進めていくというスタイルなのです。
もちろん取材はこの一度きりではなく、前後に補足も
行われたそうですが、そうした痕跡は感じられません。

火酒を一杯、二杯、三杯と杯を重ねていくうちに、インタビューの
内容がしだいに深まっていくことに読者も気づかされると思います。
二人の距離がだんだんと近くなっていくような感覚です。
もちろん、そこには沢木耕太郎さんの文章力があるのでしょう。
こうした文体が、読者を酔わせてくれるようなのです。
インタビューに読者をどんどん引き込んでいきます。

沢木さんは藤圭子さんの、デビュー、生い立ち、突然の結婚と離婚、
両親、将来にじっくりと迫っていきます。
若い世代にとっては、藤圭子さんは人気歌手というよりも、
宇多田ヒカルさんの母親として認識している人も多いのではないでしょうか。
その活動や作品を詳しく知っていなくても、沢木耕太郎さんが感心するように、
藤圭子さんの「気持ちのいい」生き様に驚かされるのではないでしょうか。
数多くいる芸能人のなかから、沢木耕太郎を取材に向かわせたのは、
空港で偶然であったからというだけではありません。
ほかの歌手にはない人間的な魅力や深み、上手に生きられない不器用さが、
藤圭子さんにあったからなのでしょう。
なかでも、藤圭子さんが、NHK紅白歌合戦の出場を逃した際の回想が
印象的でした。
藤さんはマネージャーに次のように伝えたそうです。
「向こうが出さないっていうんだから、こっちも出るのをやめようよ、
来年のNHKのスケジュールをとるのはやめよう、って。(中略)
選ばれた人より、あたしの方が劣っているとは、どうしても思えない」。
多くの歌手がNHK紅白歌合戦を目標にしているといわれています。
ところが、藤圭子さんは、納得のいかない感情を押さえ込むことは
できなかったのです。
沢木さんの問いかけに、「どんなことでも筋は通すべきだと思うんだ」
と答えています。
並大抵のヒット歌手なら、このよな極端なことはしないのかもしれません。
感情を押し殺しても、次の紅白出場を待つのではないでしょうか。
こうした、藤さんの真意が知りたくて、沢木耕太郎さんはインタビューを
敢行したのでしょう。
本書を一読すれば、「宇多田ヒカルの母」だけではない歌手・藤圭子の
人物像がわかるのではないでしょうか。