「火車」(宮部みゆき)読書感想文の書き方の例文1200字

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「火車」(宮部みゆき)読書感想文の書き方の例文1200字

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俺は、君に会ったら、君の話を聞きたいと思っていたのだった。これまで誰も聞いてくれなかった話を。君がひとりで背負ってきた話を。逃げ惑ってきた月日に。隠れ暮らした月日に。君が密かに積み上げてきた話を。
[br num=”1″] 宮部みゆき著「火車」のラストで、主人公の真犯人への思いがこんなふうに語られます。犯人に寄り添った主人公の思いは、とても腑に落ちるものでした。この物語で描かれる事件の犯人は非常に複雑な事情を背負っていて、ただ罪を糾弾すれば済むというものではなく、主人公が寄り添う思いを抱くことによってようやくかすかな救いが感じられたからです。
[br num=”1″] 直木賞作家として知られる宮部みゆきさんの作品の中で、私が初めて手に取ったのが「火車」でした。
怪我を負い休職中の刑事・本間俊介が親戚の青年に頼まれ、失踪した婚約者の女性の行方を追うことになるのですが、一見有り触れた普通の人物が謎を持った異質な存在であると明らかになったときには非常に恐ろしく感じました。
けれど、読み進めるうちに、異質な存在にならざるを得なかった普通の人間の姿が見えてきて、なんともやりきれない気持ちになりました。
[br num=”1″] 物語の鍵となるのがローンによる債務問題です。もうだいぶ前になりますが、テレビで頻繁に消費者金融のCMが流れていた頃、グレーゾーン金利が話題になったのを私自身よく覚えています。当たり前のように持っているクレジットカードによって人生が狂っていくという怖さを、当時は「そんなこともあるんだ」くらいに考えていました。
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「火車」を読んで、実は自分は少し運が良かっただけなのかもしれないと、背筋が薄ら寒くなりました。実際に多重債務を抱えた人たちは、真面目でなんとか借りたお金を返さなければと思うあまりにあちこちで借りて借金が膨れ上がってしまったと聞きますし、普通の人たちが紙一重で普通ではなくなってしまうということが現実に起こっていたのでしょう。
「火車」で描かれているのは、人生の歯車が狂ってしまったごく普通の人間なのです。つけ加えるなら債務の発生は犯人の責任とはいえないので、余計に切なく感じます。
[br num=”1″] 物語は淡々と語られ、出てくるのもみな市井の人々です。犯人についてはすべて彼らの伝聞によって描き出され、犯人は一言も話さず、その思いすらも語られません。だからこそ「俺は、君に会ったら、君の話を聞きたいと思っていたのだった。」という本間の思いが重みを持ってきます。
[br num=”1″] 人々から遠巻きに見られながら、社会からはぐれてさまよう犯人の姿は、実体を持たない影法師のようです。影法師が必死に実体を取り戻そうとあがいているのです。追いつめられる前に、「これまで誰も聞いてくれなかった話を」聞いてくれる人が現れていたらと、どうしても考えてしまいます。
[br num=”1″] また、やはり追いつめられても、こらえて真面目に生きるべきではなかったかと思わずにはいられません。罪など背負わずに、わかってくれる人と出会えたら、それが一番よかったでしょうから。