「23分間の奇跡」(ジェームズ・クラベル)の読書感想文 書き方の例文 2000字

「23分間の奇跡」(ジェームズ・クラベル)の読書感想文
※2031文字

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集英社文庫から出ている高島幸男訳の「23分間の奇跡」には日本語訳の文章だけではなく、原文も掲載されている。難しい言葉は使われておらず、ひょっとすると英語の勉強にも良いかも知れない。

 

私がこの本を手に取った最初の理由は、そんな風に内容とは無関係のところにあった。
 しかし、読み始めてすぐに「これは、すこし違うぞ」と感じた。なにが「違う」のかは、分からない。ただ、ひどく興味を惹かれたのだ。そうなると、切っ掛けであった英語の勉強のことなど頭からすっぽりと抜けてしまい、私は丁寧に文字をなぞるようにページをめくるだけの置物になる。幸いなことにこの本に書かれている物語は短く、読み終えるまで一時間もかからなかった。

 

 さて、物語の始まりには「先生はこわくてふるえていた。」と、少し大きめの文体で書かれており、ページの終わりには「九時二ふんまえだ」と書いてある。
 そして、ラストのページには「九時二三ぷんだった」と書いてある。九時二分前から九時二三分までのあいだに起きた奇跡をつづった物語だから「23分間の奇跡」なのである。
 じつに分かりやすい。
 ある意味、題名と最初のページと最後のページだけで、全てが完成しているとも言える。そんな物語である。

 

 私は最後まで読み終わった後、すぐにもう一度読み返した。二度、三度となく読み返した。
 一度目は、大変な発見をしてしまったという感動で胸がいっぱいになった。二度目は恐ろしい物語を読んでいる気分になり、三度目は勝者によって作られる歴史の無情さを思って気分が鬱いだ。これは、そういうお話しなのだ。
 楽しくもなく、愉快でもなく、かといって悲しくもなく、怒りもない。
 文章も物語も淡々と進んでいく。
 一応、主人公らしき人物として、ジョニーという生徒が登場する。

 

 ジョニーは、先生がこわくてふるえていたときも、ほかの友達が怖がっているときも、ただひとり平気であったと描写されている。昨日までの先生が追い払われ、新しい先生によって教室に奇跡がもたらされている間も、彼だけは奇跡に抗おうとしていた。だから、確かに彼は「立ち向かう主人公」なのだろうと思う。

 

 しかし、始終ストーリーを進行させるのはジョニーではなく新しい先生なのだ。
 そして、新しい先生を憎んでいたはずのジョニーは、先生によって翻弄され、誘導され、むしろ手駒のような働きをし、最後には「すっかりまんぞくして、いいきもちになって、こしをおろした。これからは先生の言うことを良く聞いて、いっしょうけんめい勉強するぞ」と反抗的な態度など見る影もなくなってしまうのだ。ジョニーだけではない。ジョニー以外の、もっと素直な生徒たちも同じように新しい先生と先生がもたらした考え方を信頼するようになる。どこか、引っかかるものを感じながら……。
 ようするにこれは、教育という名の奇跡、洗脳を如実に表現した物語なのだ。

 

 仮に「23分間の奇跡」のあらすじだけを読んだとすれば、厳しく窮屈な教育がまかり通っていた教室に新しく自由な考えを持った先生がやってきて、それまで萎縮していた生徒たちに笑顔と希望をもたらしたという話になる。登場人物もしかり、ジョニーはやや反抗的であるが一般的な生徒であり、他の生徒たちも素直なよい子である。新しくやってきた先生もまた、生徒のことを思いやる優しい良い先生である。

 

 登場人物はみんな良い人で、物語はハッピーエンドである。
 それにも関わらず、物語を読み終えた私の気持ちが否定的な方向に傾いたのは、ジョニーを含めた生徒たちが感じている小さなひっかかりのせいだろう。と、同時にこれこそが「23分間の奇跡」という類い希な物語の神髄なのだと私は思う。
 ちなみにタイトルに奇跡とあるのも皮肉が効いており、むしろ物語の中で神という存在は新しい思想によってゆっくりと失われていくのだ。
 カバーの後ろには「自由とは、国家とは、教育とは何か、読者ひとりひとりに問題を提起する」という紹介文が載っている。国家や自由はともかくとしても、教育と洗脳にどのような違いがあるのか、その効果と恐ろしさを感じる切っ掛けにはなるのではないだろうか。

 

 現在の日本においても、学校に通う生徒で先生が教えてくれることを疑うような子供は少ないだろう。子供は、また子供を預ける親は学校に全幅の信頼を持っている。また、そうでなくては社会不適合社になってしまう。
 だからこそ、教育の根幹であるところの信念や思想を疎かにするわけにはいかないのだと思わされた一冊であった。

 

 ただ、内容的に毒が強いため、小学生でも読めるような優しい文体だが中学生以上になってから読むことを推奨したい。と、同時に学級崩壊や不登校など、生徒をうまくコントロールすることができなくなっている教師にもお勧めしたい。
 ともあれ、この一冊に出会えたことは私にとって素晴らしい奇跡であった。

 

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