「弟子」(中島敦)の読書感想文 書き方の例文 2000字

「弟子」(中島敦)の読書感想文
※1977文字

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この物語の作者である中島敦は、一九〇九年に生まれて一九四二年に三四歳の若さにして亡くなりました。中島は漢学者の家に育ったために、漢学の教養があり、古代中国に関する文章をいくつか書いています。「弟子」はその一つです。

 私が読書感想文にこの弟子を選んだのは、つい先日、三国志をモデルにした映画や、三国志を読んで、古代中国に興味を持ち、また歴史の授業や論語を通じて、孔子という人物は知っていたものの、それを題材にした文章を読んだことがなかったからです。四十ページほどの短編小説であったため、すぐに読み終えるだろうと思っていましたが、日ごろから本をあまり読まないうえに、漢文調であったため、慣れない文章に少し苦戦しました。読み進むうちに、文章が漢文調で書かれていて硬い文章にもかかわらず、過去形と現在形を混在させることで、特に会話の描写などでは、非常に臨場感があり、その書かれている情景が自然に頭に浮かんできました。

 この物語の舞台は、古代中国、周王朝が衰退し、春秋戦国時代に突入していく頃の中国です。この本では、孔子はどのように描かれているのだろうか。と思いながら読み進めました。すると、孔子をはじめ、弟子の子路や子貢などが、史記に基づいた中島の漢文に対する教養などから得た独自の考えを加えて描写されているために、登場人物の一人ひとりが生き生きと描かれており、読んでいてとても面白かったです。

 題名である「弟子」とは、孔子の一番弟子である子路を指しています。彼は魯国に暮らし姓を仲、名を由と言い、その字が子路です。子路は初め、賢者としてのうわさが高く広まった孔子という人物を辱めてやろうと孔子の家に向かったのです。そして、孔子の家に着くと、子路と孔子の問答が始まりました。しかし孔子は子路の幼稚さを見抜き、さらには子路の中にある人間としての素直さを見出したのでした。純粋な子路は、孔子の問答に返答できなくなると、すぐに自分の負けを認め孔子の門下に下りました。こうして始まった孔子と子路の生活の中で、孔子は子路に礼儀を教えようと難義します。一方子路は、孔子のあらゆる人間への観察眼の鋭さに感服し、孔子という人間そのものに心酔するようになります。しかし一方で、子路は孔子が偉大で自分よりはるかに卓越した人間であると理解しながらも、他の弟子のように笑われまい、叱られまいといった気を遣わず、遠慮なく反問し、叱られるに決まっていることをわざと聞いてみたり、孔子に向かって「考え方が疎い。」などとずけずけと言ってのけたりするのでした。それでいて「全身的に孔子に寄りかかっている」つまり全くの信頼、信奉を孔子に捧げているのでした。

 この様に、たとえ相手が師であろうと自分の考えをはっきりという子路であるからこそ、孔子も信頼を寄せることができ、一番の弟子になったのではないだろうか。何事も腹を割って話さなければ、信頼も得ることができないのであろうと考えました。
 魯公に見切りをつけ、長い放浪の旅を始めた孔子たち。やがて子路は五十歳を超え、孔子の推薦のもと、衛の国王に使えるようになりました。そんなある日、しばらく衛国を離れていた子路が衛国へと戻ってくると、衛では政界の大物が死に、政治が乱れ、衛侯父子の争いは激化していて、政変の機運が高まっていることがどことなく感じられました。そのような時に、子路の家に使いが手紙を持ってきたのです。そこには子路の直接の主人に当たる孔悝が捕らえられ、脅されたと書いてあったのです。それを知った子路は、黙っているわけもなく、刀をもって公宮へと向かいます。しかし、そこへやって来た子路を見た簒奪者は、子路を討つように命じ、子路は刀で全身を斬られて死んでしまうのでした。魯にいた孔子は、衛の政変を聞くと、即座に「子路が死んだ。急いで衛に向かおう。」と言ったのでした。孔子は子路とともに三十年余りを一緒に過ごしたために、子路の性格から、敵から逃げ出さずに、孔悝を助けに行き、そこで討たれたのだろうという考えが、瞬く間に浮かんだに違いないと感じました。それほど師弟関係でありながら、思いを理解しあっていたのだろうと。やがて子路の死を聞いた孔子は涙を流し、子路の屍が塩漬けにされたことを聞くと、家中の塩漬けの類の一切を捨てさせて、以後塩漬けを口にすることは二度となかったのでした。

 この小説では、子路という人物が損得を考え、何か策略のもとに動くということはなく、あくまで本能に従って生きており、その純真無垢さが際立っていました。読んでいる私も、子路という人物の透明感ある人間性にとても魅力を感じて惹きつけられました。それと同時に著者中島の無駄な修飾のない簡素な文章の中に、最愛の弟子を亡くした孔子の悲しみと、落胆の大きさが感じられ、胸に迫るものがあった小説でした。

 

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