読書感想文
「十五少年漂流記」(ジュール・ヴェルヌ)
※1993文字※
スリルと冒険に満ちた小説。この「十五少年漂流記」を一文で表すとすれば、こうだ。
この小説は、かなり古い。しかしその古さを、わたしはほとんど感じなかった。
最近の小説と言われても、特に不思議に思わなかったに違いない。
どうして古さを感じなかったのか。
おそらくこの「十五少年漂流記」が、勇気に溢れた小説だからだ。
勇気は、どの時代、どの場所においても変わらない。
無人島に漂流し、必死に生きようとする少年たちの勇気は、今読んでも、そして未来に読んでも、決して色褪せないはずだ。
私はこの小説を読んで、努力することの素晴らしさを学んだ。
無人島に漂流、という特殊な状況ではある。
しかし、だからこそ少年たちの頑張りが、より一層輝かしいものに見えるのだ。
それは、努力をしないということが、死に結びついているからだと思う。
つまり、少年たちは究極的には、死と戦っているのである。
そういう努力を目の当たりにして、心を揺さぶられない人間はいないのではないだろうか。
死と戦うということは、少年たちにとっては、酷なことだったに違いない。
何度諦めようとしたことだろう。
死を選ぶ方が楽だ、という極限状態だったはずだ。
それでも彼らは勇気で、それを乗り越えてみせる。
その克己心を、私は見習いたいと思う。
「最後まで諦めずに頑張れば、なにかが変わるかもしれない。状況を打破できるかもしれない」という強い意志は、彼らから学ぶことができるのではないだろうか。
年端もいかない、若い彼らに。
最初に断ったように、この小説は「漂流記」というだけあって、スリルと冒険に溢れている。
だから、そういう視点で楽しむことも十分に可能だ。
読んでいると、実際に自分が「十六番目の」少年になって、彼らと冒険なりサバイバルなりを共にしている気分になる。
彼らと共に喜び、彼らと共に哀しみ、あるいは「生きる」ということの素晴らしさを共に実感できる。
そういう臨場感が、この「十五少年漂流記」という小説にはあるように感じた。
それこそ、冒険もののハリウッド映画を観ているような感覚だ。
情景描写が巧みで分かりやすいから、スッとイメージできる。
物語の中に入り込みやすい。児童文学という位置づけだから、意図的に読みやすい文章にしたのだろう。
そういうわけで、ページをめくる手は最後まで止まらなかった。
あっという間に読み終えてしまった。(もう少し物語の世界に没入していたかったが)
スリルと冒険、勇気と努力に彩られたこの「十五少年漂流記」には、もう一つ注目すべきところがある。それは、少年たちの「友情」だ。
この友情には、浮き沈みがある。
初めから全員の仲が良かったわけではないし、無人島で生活する中で、衝突が起こりもする。
協調性のない人物もいる。だから、読み手はハラハラする。「このままで大丈夫なのだろうか」と不安になったりもする。
しかし、それこそがこの「十五少年漂流記」の醍醐味であると私は感じる。
初めからみんなが仲良しであれば、あまり面白味はないように思う。
バラバラだった少年たちが、無人島に漂流するという危機的状況の中で少しずつ結束していくというのが、この小説の素晴らしいところなのである。
友情の素晴らしさ、さらには友人を持つことの素晴らしさを、わたしは感じないわけにはいかなかった。
一人では無力だが、二人、三人と協力すれば、困難にも打ち勝つことができるのである。
わたしは現実に翻って、友人を大切にしようと思った。そして同時に、あまり仲良くない、話をしたことのない人とも、交流してみようと思った。
絆が芽生えてから初めて分かることもある。
それも、この小説から学んだことだ。
この小説は、スリルと冒険に満ちているが、それだけではない。
学ぶべきところがかなり多い。ただの「漂流記」ではないのだ。
私は、そういう要素も、この小説が古く感じられない、つまりいつまでも色褪せない理由なのではないかと推察する。
教訓めいているというか、人生の参考になるのである。
この本は児童文学だが、高校生や大学生、あるいは大人が読んでも楽しめるのではないだろうか。
それどころか、むしろ大人になって読むからこそ、新たな発見をすることができるのではないだろうか。
ジュール・ベルヌ「十五少年漂流記」は、エンターテイメントであり、訓話的であり、友情物語であり、青春小説でもある。
無人島に漂流し、自分たちの力で創意工夫を凝らしながら生活していくというのは、思春期の少年なら誰もが憧れる(死が隣り合わせではない、という前提は必要であるにしても)シチュエーションなのではないだろうか。
その意味ではこれは、少年たちの「自立」の物語でもある。
様々な要素を織り込みながら成立するこの「十五少年漂流記」という小説は、おそらくこれからも、これまでと同じように時代を漂流しながら、多くの人に読み継がれていくことだろう。
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